マッチ好きの少女

店の想いが詰まったマッチが生み出す物語
「ブログだからこそ一箱のマッチから様々な物語が生まれました」
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「マッチ好きの少女」インタビュー (4/4)

手品にも使えるマッチ

ここで白あずきⅡさんが、面白いマッチを見せてくれた。緑のクローバーと赤いダイヤが配された不思議な図柄。なんと、これは手品に使えるマッチだという。

「『世田谷邪宗門(東京都・世田谷)』というお店のマッチです。私はいつもマッチをもらうときに『いただいてもいいですか?』と声をかけるのですが、この時は、カウンターにあるマッチを目の前に『いただいていいですか?』と聞いてもマスターはこちらに背中を向けていて、なかなか『いいよ』と言ってくれませんでした。『だめなの?』と思っているとマスターはおもむろにこちらに近付いてきてマッチを一個手に取ると、片手でくるくると回して手品を披露して下さいました。この店はマジシャンでもある名物マスターで有名な『国立邪宗門』の流れを汲む喫茶店で、ここのマスターもマジックが大変お上手なのです。一見すると、ただのトランプ模様のマッチですが、お店の方とのやり取りがあることで、ただのマッチではなくなるんですよね」

こういった変わり種マッチは、まだまだある。

「浅草に『ヨシカミ』という洋食屋さんがあるのですが、ここは通常のマッチのほか、酉の市や三社祭(「ヨシカミ(三社祭バージョン)」)など、イベントごとに特製のマッチを作っているのです」

 マッチの箱が、メッセージを伝える媒体になっているケースもある。

鎌倉にある『扉』という喫茶店に昔置かれていたマッチは、表面はわりとありがちな名画なのですが、その側面に<この原画は一昨年京都のロートレック展にて喪失し目下捜索中のものです。ご協力ください。>と書かれています。調べてみると、1968年に京都国立近代美術館で開催されていた『ロートレック展』で盗まれたのが、この画『マルセル』(時価3500万円相当)なのですが、なぜこのお店がマッチにメッセージを入れてまで探しているか、不思議ですよね」

何気なく眺めているマッチにこんなに多種多様な物語があるとは、実に面白い。

なお、このインタビューは、新宿にある「スカラ座」という喫茶店で行なった。白あずきⅡさんに「マッチの思い出がある場所で」とお願いして指定してもらったところなのだが、この店の各テーブルの灰皿の上には、美麗なマッチが置かれている。

「マッチ好きの少女」写真4
新宿にある喫茶店「スカラ座」のマッチ。右が新しいもので、左が古いものです。以前は歌舞伎町にありましたが、現在は新宿駅の小田急エース内にありますので、一度、立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

「このスカラ座は、以前、歌舞伎町の中にあったものが閉店して、その翌年現在の場所(新宿駅南口)に、移転してきたのです。でも調度品などは、そのまま移されていて、とても雰囲気がありますよね。そして、これは以前のマッチです」

そういって白あずきⅡさんは、古いスカラ座のマッチを取り出した。

「こうして並べると、なんだかその間の歴史が感じられていいですよね」

二つ並んだオペラをモチーフにした趣きあるマッチ。新旧が隣り合うと、なにかここから物語が生まれそうな雰囲気が漂ってくる。

そうか。集めているのはマッチじゃなくて物語なんだ。

このブログを読み、彼女の話を聞いてこんな感想をもった。ぜひみなさんにも、一箱のマッチから始まる物語を楽しんでいただければと思うのだ。(岡部敬史)